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詳しく知りたい不妊治療不妊検査

1. 不妊検査を受ける対象

「不妊」とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、1年を経過した時点で妊娠しないものをいいます。そのような場合には不妊検査を受けた方が良いでしょう。

不妊症の原因が何であるかを特定することは治療を行う上でとても大切です。その不妊症の原因を知り適切な治療法を行うために、問診、診察および必要かつ十分な検査を行います。

では、具体的にどのような場合に不妊検査を受けるべきかについてまとめたものを以下に示します(表1)。

表1不妊検査を受ける対象
1 女性の年齢が35歳未満で、避妊のない性交があるにも関わらず12か月以上妊娠が成立しないカップル
2 女性の年齢が35~40歳で、避妊のない性交があるにもかかわらず6か月以上妊娠が成立しないカップル
3 可能な限り早期の検査が必要なカップル
【女性側のリスク因子を有する場合】
  • (1)年齢が40歳以上
  • (2)月経周期の異常(希発月経、無月経)
  • (3)骨盤内炎症性疾患の既往
  • (4)既知の子宮疾患(子宮筋腫、子宮腺筋症など)
  • (5)重傷の子宮内膜症
  • (6)卵巣の手術既往
  • (7)抗癌剤または放射線治療の既往
  【男性側のリスク因子を有する場合】
  • (1)精巣の手術既往
  • (2)成人発症のムンプス(おたふくかぜ)
  • (3)性機能障害
  • (4)抗癌剤または放射線治療の既往
  • (5)他のパートナーとの不妊歴
(生殖医療の必修知識[一般社団法人 日本生殖医学会編]p63表1より抜粋)

2. 不妊検査の進め方

不妊の原因とその割合は卵巣因子が20.5%、卵管因子が20.4%、子宮因子が17.6%、免疫因子5.2%、男性因子が32.7%という調査結果があります(日本授精着床学会・倫理委員会:非配偶者の生殖補助医療による不妊患者の意識調査.2004:21:6-14)

妊娠が成立するためには、射精から受精までの条件、卵胞発育から受精までの条件、受精から着床までの条件など、各段階で生理現象が正常に働くことが必要になります。射精後、精子が受精の場、すなわち卵管に達するだけではなく、丁度その中で女性の身体の中でホルモンの調節を受けた卵子が成熟し、タイミングよく排卵が起こり、受精し、発育、着床へと障害なく進まなくてはなりません(荒木康久 生殖補助医療技術学テキスト[第1版] P28 2016一部改変)。

また、WHOの調査結果によると不妊カップルの男女の不妊の要因は男性因子が24%、女性因子が41%、男性・女性ともに原因がある場合は24%です(WHOの調査[Comhaire, F.H:Male Infertility, London:Carpman&Hall Medical, 1996])。従って、不妊カップルの約半数は男性側にも原因があるため男女双方の要因を考える必要があり、検査は男性側と女性側で同時に進めていくことになります。検査項目につきましては、我が国では産婦人科診療ガイドライン産婦人科外来編2014 CQ313「不妊症の原因探索としての一次調査は?」にその記載があるので以下に記します(表2)。

これらの検査を行い、それでも不妊症の原因が特定されない場合には、原因の究明に必要な検査を計画します。

表2 一般的な検査
女性
1 基礎体温測定
2 超音波検査
3 内分泌検査
4 クラミジア抗体検査あるいは抗原(核酸同定)
5 卵管疎通性検査
6 頸管因子検査
男性
精液検査

3. 女性の不妊検査

女性側の検査はほとんどの方が受ける一般的な検査(表2)と、一般的な検査では不明確な部分や疾患が疑われる場合等に受ける特殊な検査があります。

(1)一般的な検査
①基礎体温測定

基礎体温とは心身ともに安静な状態で測定した体温のことです。大切なのは体温自体ではなく、正常な月経周期の卵胞期には低い体温を、黄体期には高い体温を示す2相性のパターンが認められることです。基礎体温測定からは以下のようなことが確認できます。

  • 1)排卵が起こっている
  • 2)毎月のパターンから排卵日が予測できる
  • 3)黄体機能不全の有無
  • 4)不正出血の原因を推測できる
②超音波検査

婦人科診察室の診察台の上でおこないます。子宮全体の肥大、変形、腫瘤の有無と子宮内腔の形状、子宮内膜の状態などの他に、子宮筋腫・子宮腺筋症・子宮内膜症・子宮内膜ポリープ、卵巣嚢腫などの異常がないかを確認します。また、経腟超音波検査による子宮・卵巣の観察は不妊治療においては必須です。中でも排卵のモニタリングは排卵の予測方法として汎用されています。

③内分泌検査

血液を採取して各ホルモン検査を行います。ホルモン検査には、下垂体から放出されるホルモン(卵巣を刺激する卵胞刺激ホルモン[LH]・黄体形成ホルモン[FSH])、女性ホルモン・男性ホルモン、黄体ホルモン(プロゲステロン)、母乳を分泌するプロラクチンや甲状腺ホルモンの検査が含まれます。ホルモンは月経周期によっても変化しますので、月経期・黄体期などに分けて検査します。また、最近では抗ミュラー管ホルモン(AMH)の測定が普及しています。これの値は卵胞数を反映しており、卵巣機能の予備的な確認に有用とされています。

④クラミジア抗体検査あるいは抗原(核酸同定)

血液を採取してクラミジア抗体検査(IgG、IgA)の有無を確認します。クラミジア抗体検査(IgG、IgA)は卵巣の病変の有無を予測するのに有用な検査です。クラミジアIgG抗体検査が陽性の場合、卵管病変が確認される可能性は60%程度ですが、逆に陰性であった場合に卵管病変が認められない可能性は80~90%と高いのが特徴です(den Harton JEら Hum Record Update 2006:12:719-730)。

クラミジア抗原(核酸同定)検査はクラミジア感染の有無の確認に行います。

⑤卵管疎通性検査

卵管疎通性検査には卵管通気法、子宮卵管造影法、超音波下卵管通水法の3種類があります(必ずしも全ての検査が行われるわけではありません)。

  • 卵管通気法(日産婦誌59巻4号 2007.4より一部抜粋)
    卵管の疎通性を診断することは可能ですが、卵管の左右別の疎通性を判定することはできないとされています。繰り返して行うことが可能であり、体に負担の少ない方法です。外来で容易に実施できるのが利点です。
  • 子宮卵管造影法(生殖医療の必修知識 一般社団法人日本生殖学会編p79,93一部抜粋)
    月経直後に行うX線検査です。子宮口から細い管(バルーンカテーテル)を膨らませて造影剤を注入し、子宮から卵管を通り腹腔内へと造影剤が広がってく様子を経時的に観察します。
    卵管因子不妊症の診断の第一選択の検査法として用いられます。卵管の閉塞や狭窄などの卵管通過性および卵管留水症、さらに卵管周囲癒着に関する観察や所見だけでなく、子宮内腔癒着など子宮内腔の所見を得ることができます。従って、子内腔の形態を評価するには適しています。
  • 超音波下卵管通水法(日産婦誌59巻4号 2007.4より一部抜粋)
    卵管疎通性検査というよりは、卵管通過障害、卵管形成術後の癒着防止のためなど治療を目的として行われることが多い方法です。
⑥頸管因子検査

不妊症の原因のうち頸管因子は数%存在すると考えられています。子宮頸管より分泌される頸管粘液は、子宮内腔、卵管へと進む精子の通路になるだけでなく、精子の取り込み、貯蔵、選択、活性といった生殖生理において重要な役割を担っています。

頸管因子が原因の不妊症では頸管粘液の分泌に異常がある場合と、頸管粘液と精子の適合性に問題がある場合があります。従って、それぞれ頸管粘液検査や精子頸管粘液適合検査(フーナーテスト:性交後試験)を行います。フーナーテストとは性交後に膣内、頸管粘液内の運動精子の存在を調べる検査です。フーナーテストに異常が出た場合、抗精子抗体などの免疫因子の存在のほか、乏精子症や精子無力症といった男性因子が存在する可能性があります。

抗精子抗体の検査は早めに行った方が良いでしょう。一般的に血液中の抗体の存在と抗体の強さを測定します。

(2)特殊な検査

上記の一般的な検査に加え、さらに卵管因子(卵や精子を運んでくれるか)と子宮因子(受精卵を着床できるか)について調べる必要がある場合には、以下の検査を行うことがあります。これらの検査が追加として加えられるか、または最初から行う予定であるかは受診される医療機関により異なる場合がありますので、きちんと説明を受けて確認しておく必要があります。

①腹腔鏡検査・子宮鏡検査

腹腔鏡検査は上記で説明した卵管疎通性検査の1つである子宮卵管造影法で異常を認めた方において、さらに詳細を知るために行うことがあります。
子宮卵管造影法での卵管の疎通性が十分でない方や造影剤の拡散が十分でなく卵管周辺に癒着が疑われる方には、直接確認できる腹腔鏡検査を行うことは意義のあることです。また、これにより子宮・卵巣をはじめとする骨盤内臓器の状態が確認でき、子宮内膜症や卵管周囲の癒着などのいままで分からなかった不妊原因がわかることがあります。つまり、腹腔鏡検査により子宮卵管造影法では十分に観察することができない部分を補うことができます。

子宮鏡検査は、経腟超音波検査や子宮卵管造影法では見つけることのできない子宮内膜ポリープ、慢性子宮内膜炎などを見つけることができます。また、癒着子宮内腔の病変、子宮粘膜下筋腫などの有無や子宮内に奇形・異物がないかを観察するために行われます。

②MRI検査

磁場を用いてCT検査のように体の断面像を撮ることのできる検査です。子宮内膜症病変の診断および進行の度合いの推定に非常に有用です。

4. 男性の不妊検査

男性不妊症に対する診療では、性行為回数を含めた性活動に関する詳細な情報という極めてデリケートな内容を伺う必要もあり、プライバシーを十分確保した形で慎重に行います。専用の精液採取室を準備するなど、プライバシーに配慮した診療が行われています。しかし、医療機関のすべての泌尿器科が男性不妊の診療を行っているわけではありません。むしろ男性不妊を専門に扱っている施設は少なく、ほとんどが婦人科(特にART「生殖補助医療技術」の出来る施設)で診療されています。その場合、泌尿器科専門医による外来の有無などを確認された方が良いと思います。
男性側の検査は、不妊症の診断のためにおこなわれる精液検査と一般的な泌尿器科的な検査に分けられます。泌尿器科的な検査については、精液検査のみを希望する方もいらっしゃるため患者さんの希望に合わせた検査の実施を原則としています。

(1)精液検査

精液量、総精子数、精子濃度、総運動率、前進運動率、生存精子率、正常形態率などを検討します。精液は、2-7日の禁欲期間(射精しない期間)の後に採取し、禁欲期間は記載するようにします。自宅で採取した場合、温度変化に気を付け20℃から30℃以下に保持し2時間以内に検査すれば、ほぼ病院で採取した場合と同様の結果が得られることが多いと言われています。1か月以内に少なくとも検査を2回行います。2回の結果に大きな違いがあれば、さらに検査を行います。以下に基準値を示します(表3)。

表3 精液検査の正常値(WHOマニュアル(第5版)による正常下限値)
検査項目下限基準値
精液量 1.5ml以上
総精子数 3900万/射精以上
精子濃度 1500万/ml以上
総運動率 40%以上
前進運動率 32%以上
生存精子率 58%以上
正常形態率 4%以上
(2)泌尿器科的検査(主な検査)
①診察

問診により不妊症に関連する病気の既往の有無、勃起や射精などの現在の性生活の状況を確認します。次に外陰部(陰茎、陰嚢、鼠径部、内性器)の診察を行い、男性不妊症の原因として最も頻度の高い精索静脈瘤(精巣上部や周辺の静脈が拡張した状態)の有無などを視診、触診で行います。

②内分泌検査

血液中の男性ホルモン(テストステロン)や性腺刺激ホルモン(LH、FSH)、プロラクチンなどを調べます。

5. 不妊因子のまとめ

以上ここまで記載した不妊の因子を表4にまとめましたので参考にしてください。
また、様々な検査方法について紹介してきましたが、これらの検査を行っても約3割は明確な不妊の原因が分からない「原因不明不妊」です。

表4 不妊因子のまとめ
男性側の要因 女性側の要因 男女両方の要因
造精機能障害

無精子症
乏精子症
精子無力症
奇形精子症
精索静脈瘤

精路閉鎖
性交障害

勃起障害
射精障害

ホルモン障害

低ゴナドトロピン性性腺機能不全
高プロラクチン血症
男性ホルモン(テストステロン)分泌低下

視床下部-下垂体-卵巣系の障害

無排卵性月経または無月経
希発月経
黄体機能不全
卵巣嚢腫
多嚢胞性卵巣症候群
高プロラクチン血症

甲状腺・副腎疾患
卵管因子

卵管狭窄、卵管周囲癒着、閉塞、留水腫

子宮体部

子宮筋腫、子宮腺筋症、内膜ポリープ、先天奇形、子宮腔内癒着など

子宮頸管因子

粘液分泌不全
慢性頸管炎

骨盤内炎症・癒着

クラミジア感染症

子宮内膜症
免疫性不妊
性の不一致

性交障害
性交不能
性交回数減少など

原因不明不妊

(荒木康久 生殖補助医療技術学テキストp30表5-2一部改変)
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