難治性着床不全および不育症専門外来
難治性着床不全および不育症専門外来は、着床不全や不育症の原因検索を行う外来です。
体外受精において、40歳未満の⽅が良好な受精卵(胚)を4回以上移植した場合、80%以上の⽅が妊娠されるといわれています。従いまして、良好な胚を4個以上かつ3回以上移植しても妊娠しない場合を「難治性(反復)着床不全」といいます。
着床不全の原因検索には限界もありますが、当院では⼦宮内膜着床能(ERA)検査、⼦宮内膜組織検査、⼦宮内細菌培養検査を積極的に⾏っております。
不育症とは 妊娠はするものの2回以上の流産や死産または生後1週間以内の死亡により、赤ちゃんが得られない病気です。流産を繰り返す「反復流産」や「習慣流産」も不育症に含まれます。不育の検査に、助成⾦が新設されました(東京都)。詳細は以下をご覧ください。
着床不全の原因として
- 受精卵側の問題 → 着床前遺伝⼦診断(現在は学会の検査許可待ちとなっています)
- ⼦宮内の環境の問題 → ⼦宮鏡検査(ポリープ検索以外に⼦宮内膜炎の診断にも有効です)
- 受精卵を受け⼊れる免疫寛容の異常 → 免疫検査(採⾎で、Th1/Th2 細胞、treg.th17、ビタミンD)
当クリニック独⾃体外受精成功への概念
以前から原因が明らかでない体外受精の反復不成功症例・原因不明の不育の患者さまの中には受精卵・胎児に対する拒絶反応が強く、着床後の免疫学的な受け⼊れが⼗分⾏えない事がその病因の⼀つと考えられています。
Th1/Th2で異常が認められた場合、この拒絶反応を抑えるために免疫細胞(T細胞)の機能を抑制する薬、「タクロリムス」※を⽤いて、⺟体の胎児拒絶を抑えることで着床・妊娠の維持が可能と考えられます。
- ※このお薬は臓器移植を受けた患者さんに幅広く使われ、移植された後、お薬を内服し続けた状態で妊娠・出産された報告も数多くあり、胎児に対する安全性も明らかとされており、安全なお薬として認識されています。妊娠中の服⽤もご安⼼ください。
コロナ禍でのタクロリムス使⽤に関する当院の考え⽅
私たちの施設では、免疫学的着床障害や不育症の患者さまにタクロリムスを使⽤しています。妊娠が成⽴した後も服⽤を継続しておられる患者さまもいらっしゃると思います。不育症専⾨と唄っています某クリニックのHPで「健康なのにタクロリムスを飲んでいる⼈は、新型コロナウィルスの発症、重症化のリスクが⾼い」と朱書きで記載されており、この記事を読まれた患者さんは不安になると思われますので、杉⼭産婦⼈科新宿の考え⽅をここに記載いたします。
新型コロナウィルスのヒトにおける受容体はアンジオテンシン変換酵素2(ACE-2)で、このACE-2受容体は肺胞上⽪や⾎管内⽪細胞、⼼臓、腎臓、消化管の細胞に発現しています。特に肺胞上⽪の83%にACE-2受容体が発現しているためCOVID-19では肺炎が主な症状になります。COVID-19の重症化するメカニズムには、サイトカイン・ストームが関連していると考えられています。サイトカイン・ストームとは炎症性のサイトカイン(IL-6、INF-γ、TNF-α、IL-1β等)が過剰に分泌した、上⽪細胞障害、内⽪細胞障害、ミトコンドリア障害などが⽣じた状態です。現在、これらの状態、すなわちCOVID-19のおけるサイトカイン・ストームの治療法として、抗IL-6療法(トシリアズマ;慢性関節リウマチの治療薬)、抗IL-1療法(アナキンラ;⾃⼰免疫性疾患の治療薬[国内未承認])、抗TNF-α療法(アダリムマブ;慢性関節リウマチやベーチェット、潰瘍性⼤腸炎の治療薬)などがその効果を期待されています。
タクロリムスは、薬の分類では「免疫抑制剤」ですが、1993年に国内で発売されてから⻑い期間が経過しています。その間に、様々な報告がなされており、健常な⽅がタクロリムスを1⽇2mg、3mg服⽤しても、感染症が増えることはない、と報告されています[1, 2]。また、着床障害や不育症の際に使⽤する量(1〜3mg/⽇)では、タクロリムスの⾎中濃度とは臓器移植の⽅に使⽤する場合の半分〜1/3程度で効果を得ております。さらに、タクロリムスは上記のサイトカイン・ストームの主役となるIL-6、INF-γ、TNF-αなどの分泌を抑制します。従って、タクロリムスを服⽤しているからといって、新型コロナウィルスにかかりやくなることはなく、むしろ服⽤することで、COVID-19の重症化を防ぐ可能性さえ期待できます。
未曽有のウィルス感染症が蔓延し、⽇本⽣殖医学会からの不妊治療を控えること等の声明もあり、1⽇でも早く⾚ちゃんを望まれる患者さまにとっては苛⽴ちの募る⽇々が続いていると思われます。我々も、今、できることに全精⼒を注ぎ、⼀⼈でも多くの⽅を笑顔にできるよう努⼒していきます。
文献[1] Yocum DE, 2003, [2] Yocum DE, 2004
検査
当院では、必要に応じて下記の検査を⾏っております。
⼦宮内膜着床能(ERA)検査
体外受精において、良好胚移植を複数回⾏っても妊娠しない、反復着床不成功例に対して⾏う検査です。
⼦宮内膜組織検査
慢性⼦宮内膜炎を厳密に診断する場合、⼦宮内膜組織を採取し、顕微鏡で形質細胞という細胞を確認することで⾏います。
⼦宮内細菌培養検査
⼦宮内感染の原因菌の同定を⽬的に⾏います。これにより原因菌と共に効果のある抗菌薬を⾒つけることができる場合があります。
他院よりご来院の患者さま
当院で検査のみは可能ですが、治療(内服)のみはお断りしております。
治療が必要な場合、お薬の量や、妊娠後に使⽤する週数に決まりがございませんので、当院で胚移植から実施し、経過を観察する必要があるからです。(先⽅の許可があれば、胚の移送は可能です。移送⽅法は 「凍結検体の移送について 」 をご覧ください。)
お⼿数をおかけしますが、ご理解の程よろしくお願いいたします。検査結果は約7〜10⽇後になります。